メタン発酵(嫌気性処理)・管理の要点、ポイント、コツ等(PAGE‐1)

  

メタン発酵(嫌気性処理)・管理の要点、ポイント、コツ等(PAGE-1)

 

このPAGEの目次

      

  はじめに:なぜ今「メタン発酵(嫌気性処理)の要点」なのか?
1、絶対嫌気性の確保
2、メタン発酵の適正pH
3、メタン発酵の負荷管理の要点

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はじめに:なぜ今「メタン発酵(嫌気性処理)の要点」なのか?

 メタン発酵(嫌気性処理は)は活性汚泥法と並んで有機性廃水の処理方法として
広く普及していますが、メタン発酵がビール工場や焼酎排水等、濃厚で大量の工場排
水の処理法として、広く使われるようになったのは、実はごく極く最近のことなので
す。メタン発酵を工場廃水に適用するにはそれだけ制約要因が多かったと言えます。
メタン発酵は設計するにも運転管理するにも活性汚泥とは違ったむつかしさのある
技術です。

 今やメタン発酵は当たり前の技術として広く適用されるようになってきましたが、
一方で、そのむつかしさのようなものが置き去りにされて、安易に適用されているケ
ースも増えてきているように思います。そのために「もうメタン発酵は懲り懲り」と
いうような現場の声も聞かれたりします。----そんなことはないんです。メタン発酵
というのは、やはり「有機性排水や生ごみを中心としたバイオマスを
処理しながらエ
ネルギー(バイオガス)を回収できる」素晴らしい技術なのです。地球温暖化対策の
技術の1つとしても、今後もますます重要になってくる技術のはずです。

 メタン発酵の原理的なこと、教科書的なことは他の成書に譲るとして、メタン発酵
の管理の要点、ポイントまたはコツ
(特に活性汚泥と違う点)のようなものをまとめ
て見たら、現場でメタン発酵設備の管理にご苦労されている人たちのお役に立つので
はないか、と思い書き始めました。

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1、絶対嫌気性の確保

 メタン菌は偏性嫌気性菌ですので、酸素を嫌います。前世紀の後半までメタン菌の

研究が進まなかったのは、実験室的に絶対嫌気性の条件を作り出すのがむつかしく純

粋培養が進まなかったからと言われています。

 

メタン発酵の実験を試験室でやるのは相当熟練を要します。特に連続メタン発酵テ
ストでは、どこかから酸素が忍び込んで、メタン発酵を阻害するということがよく起
きます。実設備では大きな問題になることは少ないですが、それでも思わぬところか
ら酸素が忍び込んでメタン発酵を阻害していることがありますので要注意です。

発酵が順調に進んでいるメタン発酵槽の酸化還元電位は-350mv 以下になって
います。

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2、メタン発酵の適正pH

 

メタン発酵の適正pH範囲は 6.58.5 の中性域です。この点では活性汚泥と変わり
ません。

 ただし、排水中またはバイオマス中に硫黄分が多く硫化水素ガスが発生しやすい
場合はpHを高めに設定します。硫化水素ガスの毒性を緩和するためです。HS(硫化
水素イオン)の毒性はH2S(硫化水素ガス)よりずっと低いからです。
       H2S 両方向矢印11.JPG HS + H


 下図はH2SHSの平衡曲線です。pHが高いほどH2Sの存在比率が少なくな
る(毒性が下がる)のがわかります。



           H2S平衡曲線2.JPG  


 

  また、排水中またはバイオマス中に窒素成分が多くNH3(アンモニア)が生成しやすい場
合はpHを低めに保ちます。NH3の毒性を緩和でするためです。NH4(アンモニウムイオン)は
NH3
(アンモニアガス)よりメタン菌に対する毒性がずっと低いからです。NH4の毒性は低
く 3000~5000mg/l でも(活性は落ちますが)発酵が停止してしまうようなことはあ
りません。 
      NH4
両方向矢印11.JPG  NH3 + H


  下図は NH3、NH4 の平衡曲線です。pH が高いほど、温度が高いほど NH3の比率が
高くなる(毒性が強くなる)ことがわかります。


    NH3平衡曲線.JPG



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3、メタン発酵の負荷管理の要点


3-1,負荷管理が大切である理由

 CODcr(有機物)の負荷管理はメタン発酵における管理の1の要点、ポイント

です。その理由を以下に説明します。

 メタン発酵の有機物負荷には容積負荷と汚泥当り負荷がありますが、それらはどち
らかと言えば設計のための値です。実際の運転管理ではそれらは目安です。

メタン発酵において、実際に有機物を分解してメタンガスを出すのはメタン菌で
す。メタン菌は設計値のことなんか知りません。冗談のように聞こえるでしょうが案
外大切なポイントです。

 

実際の運転管理では、今の汚泥(メタン菌)当りの分解活性×汚泥量が実際の負荷
量の限界になります。ただ汚泥の活性を毎日測定することは容易ではありません。
 現場的にはCODcr負荷、CODcr除去率、ガス発生量などを見ながら今の負荷が
上限負荷内かどうかを判断することが多いと思いますが、なかなか状態の善し悪しは
判断しにくいものです。勢い設計負荷との比較で適正負荷を論じがちです。廃水処理
の現場を預かる部署としてはそれもやむを得ないのですが、その考え方ははっきり申
し上げて危ないのです。

お薦めするのはメタン発酵槽内のVFA(揮発性脂肪酸または低級脂肪酸)を監視する
こと
です。VFAはメタン発酵槽内の状態の変化を一番敏感に示します。

VFAは有機物が低分子化し、酸発酵し、更にメタンガスに分解してゆく過程の中間生
成物です。これがほとんど蓄積されていないことは全工程がスムースに進行している
ことを示します。VFAの蓄積があることは最後のメタン発酵の過程が阻害されている
か、過負荷になっていることを示します。発酵槽内または処理水のVFA1/1日は

定されることを勧めます。


 VFAを測定するには蒸留法、ガスクロ法、液クロ法、現場であれば簡易なHACH社の比色法等

よる方法があります。状況に合わせて選択されればよいと思います。

管理のためには精度は要りませんが、状態が悪くなってきた時、より詳しくVFAの中身を知る

ためには、ガスクロまたは液クロでの分析もできる体制が必要でしょう。


好調な発酵槽ではVFA100mg/l以下になっています。管理値としては 300mg/
以下であることが望まれます。特にVFAの中でも酢酸よりプロピオン酸が多く残り始
めたら要注意です。

(プロピオン酸の問題に関しては 3-2項 で少し詳しく触れます。)


 し尿処理などではVFA1000mg/lを越えても安定運転されている発酵槽もありま
すが、これは例外です。おそらくNH-Nが高濃度に存在しpH88.5と高いこと、
設計負荷に十分過ぎるくらいのゆとりがあるからだろうと思います。

 

通常の工場排水処理のメタン発酵ではVFA1000mg/l以上も残るようになったら絶
望的です。他の管理値を適正にして待っていても回復はほとんど望めません。種菌を
足すか、入替えるのが早道です。活性汚泥であれば負荷を下げ、曝気しておれば比較
的容易に回復しますが、メタン発酵ではある点を超えたら、回復はないと認識してく
ださい。
この点は活性汚泥と決定的に違うポイントです。

 

 CODcr(有機物)負荷の管理が、メタン発酵の管理の1の要点、ポイントという
のはそういう意味です。



3-2、プロピオン酸蓄積の問題


 3-1項では、メタン発酵にとって、負荷管理が重要であること、それの管理指標

として発酵槽内のVFA測定が大事であると述べましたが、かなり慎重に運転管理して

いてもVFA値が上昇して来る、負荷をさげてVFAの低下を待っていても全く下って来な

いというような状況に陥ることがあります。(メタン発酵が現場に嫌われる最大の

理由)

このような時VFAをさらに詳しく分析してみると、必ずと言っていいくらい、プロピ

オン酸(以下Pr酸)が蓄積しています。

好調な発酵槽のPr酸は50 mg/l以下位)


 なぜPr酸が蓄積しやすく、Pr酸の蓄積がメタン発酵を阻害するのかについては諸説あ

るのですが、概ね以下のような理由が挙げられています。

  ・Pr酸が酢酸と水素に分解する反応は熱力学的に起きる条件が非常に狭い。 

  ・Pr酸が分解して生じた水素の分圧が高まるとPr酸の分解そのものを阻害する。

  ・Pr酸が蓄積すると酢酸からメタンへの反応を阻害するので、同時に酢酸の蓄積

   も起こり、発酵槽内pHが下がり、VFAの阻害性を助長する。

  ・そもそもPr酸分解菌はメタン発酵菌群の中で劣勢である。

  ・Pr酸の蓄積が他のメタン菌群の活性を阻害する。

   (Pr酸そのものには阻害性はないという説もある)

  

 現場的にはどのような点に注意すればよいのでしょうか?

Pr酸も高分子の有機物がメタンに分解される過程の中間生成物なのですが、基質によ

ってPr酸を経やすい有機物と経にくい有機物があります。排水処理でも基質を選ぶこ

とはできませんが、最近ではメタン発酵はバイオマスのエネルギー化に適用されるこ

とが多く、基質が多様化し、時期ごとに投入基質も変化しています。

結果、Pr酸の蓄積は避けられないものとして、現場での対応が要求されます。

 
 対策としては 
   ・管理指標をVFAからPr酸に変え、Pr酸を管理値以下に厳密に管理する。
   ・Pr酸を生じやすい基質を受け入れる時には、その基質に対する菌の馴養を
    慎重にしっかり実施する。
この2つが実行できればPr酸の蓄積もそう恐れることはありません。


 


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